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たかが「名変」、されど「名変」


1.住所移転登記の概略


 今回は、不動産登記のなかでも住所の変更に関する登記のお話をさせてもらおうと思います。
正確には「不動産登記名義人住所変更登記」、略して「名変」(めいへん)なんて呼ばれます。
 売買、相続などにより個人の方が不動産の登記名義を取得しますと、その時点での住所と氏名が登記されるわけですが、登記名義を取得した後にお引越をし、住所が変わった場合には住所変更 すなわち名変の登記が必要となります。
 通常、住民票を取得して登記されている住所~現在の住所までの遍歴を繋げ、法務局に提出することにより住所移転の証明としますが、複数回の住所移転がある場合 また住所移転から長期間が経過している場合 にはスムーズに住所が繋がらないことがよくあります。
 というのも、役所における住民記録の保管期間は「記録の効力がなくなってから5年間」となっております。つまり、住所を移転してそこの住民記録が除かれると、除かれた時点から5年経過のときに記録は破棄されて住民票(除票)は取得できなくなってしまうのです。
 (註:令和元年の住民基本台帳法改正により、保存期間が5年→150年と大幅に延長されましたが、既に破棄された記録については復活することはなく、上記の流れとなります)
 ひとつ例をあげて説明してみます。

2.変更を証明する書類の例


例)A市(登記記録上の住所)→ B市 → C市(現在の住所)
の経緯で住所移転している場合、
①現在のC市の住民票(B市から転居の記載あり)
②B市の住民票除票(A市から転居、C市へ転居の記載あり)
を取得することにより住所を繋げるのが基本ですが、B市→C市の転居が5年以上前となると、B市での住民記録は破棄されておりA市→B市の住所遍歴を証明することができません。
 その場合には、本籍地の役所にて保管されている「戸籍附票」(戸籍簿の附属書類として住所遍歴一覧が記載されているものです)にて対応することとなります。本籍地が遠方の場合、ちょっと面倒ですね。
 名変登記は、いつまでに申請しなければならない という期限はありませんので、不動産を売る とか贈与する とか銀行からの借入に伴い担保を設定する といったときに一緒に行えばよいのですが、長期間経過により上記のように住所が繋がらない ということがありますので、複数回の住所移転をされている方においては、早めに名変登記を行っておいたほうが得策といえます。
 「戸籍附票」は数箇所の住所遍歴を繋げるために非常に役に立つのですが、前述のとおり戸籍簿に付随する書類ですので、戸籍を持たない在日外国籍の方については存在せず、使うことができません。外国籍の方の住所移転に関する書類について、これから少しだけ詳しく述べてみようと思います。

3.外国籍の方の場合


 平成24年7月9日(以下、「制度開始日」と呼びます)に改正住民基本台帳法が施行されておりまして、この日を境として扱いが変わってきます。

<制度変遷のあらまし>
・ ~平成24年7月9日
  日本に住所を有する外国人の方については「外国人登録原票」にてその住所を管理し、住所地の
  住民課にて発行される「外国人登録原票記載事項証明書」をもって住所移転の遍歴を証明する
  書類として使用していました。これは外国籍の方が日本での居住を始めてからの経歴が住所含め
  詳細に書かれており、外国人の方の戸籍附票ともいえるものです。
・ 平成24年7月9日~
  日本に住所を有する外国人の方につき住民基本台帳法の適用対象とし、日本人同様に住民票の
  発行がされることとなりました。これにより外国人登録原票の運用は終了しています。
  「日本人同様」といっても一部違いはあり、制度開始日以前の住所その他の事項は住民票に移記
  されず、住民票には現在の情報のみの記載しかありません。
よって、住所移転の時期により住所を繋げるための書類が異なります。

<住所移転の時期によりケース分けした取得書類>
① 制度開始日以降に来日し、日本に住所を定めた場合
  日本人同様に住民票にて住所を繋げることができます。ただし、前述のとおり戸籍附票が存在
  しないため、数回の住所移転があり かつ保存期間が過ぎてしまった場合に関しては、他に取得
  する方法はありません。ご本人から住所移転の経歴などを申述する「上申書」などを法務局に提出
  することでの対応となります。
② 制度開始日以前から日本在住であるが、住所移転がそれ以降の場合
  住所移転後の現在の住民票には旧住所地が記載されるため、日本人同様に住民票にて住所を繋げ
  ることができます。基本的には上記①と同様の書類取得の流れになります。
③ 制度開始日以前から日本在住であり、住所移転がそれ以前の場合
  当然現在の住民票の取得はできるわけですが、現在の住所しか載っていないものとなりますので
  それ以前の住所については制度開始日以前の日本における住所を管理していた「外国人登録原票」
  の内容から住所を繋げていきます。
  かつて各役所の住民課にて発行されていた外国人登録原票は現在法務省で保管されていますの
  で、法務省に対し「外国人登録原票の開示請求」を行い、原票の写しを請求する必要があります。
  原票の写しの請求はご本人での手続しか認められておらず、また請求してから発行まで1ヶ月
  ほどの時間がかかりますので、住所変更登記の申請時期が決まっている場合には、期間に余裕を
  もった手続をお勧め致します。
  
 住所変更の登記手続は各種登記の中でも比較的シンプルなものですので、司法書士に依頼せずご自身で登記をされる方も結構いらっしゃるようです。ただ、我々司法書士の業界でも
「たかが名変 されど名変」などと言われ意外と奥が深いもので、様々なケースが想定されます。
 今回ご紹介させて戴いたものもその一部のケースにすぎません。
 外国 ということでいうと、海外への住所移転(またはその逆)などはさらに複雑なものとなりますので、別の機会にまたお話できればと思います。
 

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