目次
1.はじめに
例えば、皆さんの親戚の中にとても裕福な人がいて、「○○君、使ってないマンションの部屋があるから君にあげるよ」と言われたら、皆さんはどう思うでしょうか?「えっ?ただでくれるの?超ラッキー!」と歓喜する人が多いと思いますが、私だったら職業柄、「税金どれだけかかるだろう。払えるかな。」と、ついつい心配の方が先に思いついてしまいます。もちろん、普通に買えば何千万もするような不動産をただでもらえるのですから、ラッキーであることに変わりはないですが、しっかり税金のことも考えておかなければ、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。しかも、基本的に不動産に関する税金は、不動産が高額であればあるほど税額も大きくなります。以下では、不動産の取得をした際にかかる税金と、その税金を回避するスキームである中間省略登記について説明していきます。
2.不動産を取得する際にかかる税金の種類
不動産を取得する際にかかる税金で重要なのは「登録免許税」と「不動産取得税」です。その他にも、印紙税や消費税などもかかりますが、高額になりやすく、見落としやすい税金としては、この2つが重要かと思います。
登録免許税とは、不動産を取得した際に行う「不動産登記」にかかる税金です。司法書士に登記を依頼する場合は、登記費用として、司法書士の報酬と一緒に司法書士に支払うことが多いです。登録免許税は登記をする場合にしかかかりませんので、不動産を取得しても登記はしないという場合には発生しない税金です。不動産取得税は不動産を取得した人全員に課税される税金で不動産を取得してから30日以内に管轄の税事務所に申告する必要があります。
なお、上記の例ですと、「贈与税」もかかってきます。贈与税は不動産の取得に限った税金ではないので、今回は詳しく説明しませんが、「ただより高いものはない」という言葉のとおり、贈与税の税率は非常に高く、贈与で高額な不動産を譲り受ける場合は必ず贈与税に注意していただければと思います。
ここからは登録免許税と不動産取得税について計算方法等の詳細を説明していきます。
3.登録免許税
登録免許税は上記のとおり、登記をする際にかかる税金で、登記の申請を受け付けている法務局に対して支払います。登録免許税法で申請する登記の内容ごとに税率、税額が定められており、登録免許税法に基づいて税額を計算することになります。
不動産を取得した際の代表的な登記の登録免許税をまとめましたので、参考にしてみてください。
土地 建物
贈与に基づく所有権移転 固定資産評価額の2%
売買に基づく所有権移転 固定資産評価額の1.5%(注2) 固定資産評価額の2%(注1)
相続に基づく所有権移転 固定資産評価額の0.4%
建物の所有権保存 固定資産評価額の0.4%
抵当権または
根抵当権の設定 債権額または極度額の0.4%(注1)
例えば、上記の例で親戚からマンションをただで譲り受けた(贈与を受けたことになります)場合、マンションの固定資産評価額が3,000万円だとすると、贈与に基づく所有権移転登記の登録免許税を支払うことになりますので、3,000万円の2%が税額となり、登録免許税は60万円となります。
また、このマンションをお金を払って買った場合(売買)は、税率が変わってきます。売買に基づく所有権移転登記の登録免許税は、建物部分が2%、土地部分が1.5%となりますので、仮にこのマンションの評価が、建物2,000万円、土地1,000万円の場合は、
建物 2,000万円×2%(注1)=40万円
土地 1,000万円×1.5%(注2)=15万円
合計 55万円
となります。
もちろん、上述のとおり、登記をするかしないかは譲り受けた者の自由なので、登記をしなければこの登録免許税はかかりませんが、登記をしないでいると、譲受人の権利を他者に対抗できないため、非常にリスキーな状態になりますので、なるべく早急に登記をしたほうがいいことを鑑みると、不動産を譲り受けたら、まず登記の費用として上記のような税金がかかるものだと思っておいた方がいいと思います。また、銀行からお金を借りて不動産を購入する場合は、登記をするのはマストになりますし、銀行が設定する抵当権や根抵当権などの担保の登記の税金もプラスでかかってくることになります。例えば、上記のマンションの売買価格が6,000万でフルローンを組んで抵当権を設定した場合、抵当権設定の登録免許税が債権額×0.4%(注1)で24万円かかりますので、移転登記の登録免許税と併せて79万円となります。
なお、これほど高額な税金であるにも関わらず、今まで不動産を購入したことがあるのに登録免許税を払った記憶がないという人も多いと思いますが、これは上記のとおり、司法書士からの費用請求の中にこの登録免許税が含まれているため、税金を支払っている実感がないためだと思います。例えば、売買で不動産を購入した際には、「司法書士費用」として○○万円かかりますっといった形で、不動産仲介業者から案内がくることが多いですが、この司法書士費用の中には登録免許税が含まれているわけです。「司法書士の費用高いな」と思ったときには、是非、見積書、請求書の明細を確認してみてください。恐らく費用のほとんどが登録免許税であることが分かると思います。
(注1)自己居住用で購入する場合は軽減税率が適用できる場合があります。
(注2)原則は2%ですが、租税特別措置法により、令和3年3月31日までの間は1.5%とされています。
4.不動産取得税
不動産取得税は不動産を取得した人で、相続によって不動産を取得した人以外の人に課税される税金です。登録免許税のように、取得原因によって税率が変わることはなく、相続のように一定の場合に非課税となる場合や、軽減税率が使用できる場合を除き、固定資産評価額に対して下記の税率で課税されます。
取得日 土地(注3) 家屋(住宅) 家屋(非住宅)
平成20年 4月 1日から令和3年 3月31日まで 3/100 4/100
(注3)土地が宅地であった場合は、固定資産評価額の2分の1の金額にに対しての税率をかけていきます
例えば上記の例ですと、土地は宅地、家屋は住宅となりますので、
建物 2,000万円×3%=60万円
土地 500万円×3%=15万円
合計 75万円
となります。
不動産取得税は、不動産の売買や贈与を受けたときにタイムリーに納税する必要がないため、この税金の存在を知らない人は忘れたころに突然納税通知が来て慌ててしまうということが起こりやすい税金です。不動産を取得する際には、不動産取得税がどれくらいかかるのか、事前に計算しておくことをお勧めいたします。
5.中間省略登記とは
中間省略登記とは、AからB、BからCと同じ不動産が転々売買された際に、Bが所有権を取得しないようにすることにより、本来ならBに課税される登録免許税、不動産取得税をBが負担しないようにするスキームです。「不動産を買っているのに所有権を取得しないなんてできるの?」と疑問に思う方も多いかと思いますが、結論としてはできます。契約書にBが所有権を取得しないようにするための特約を盛り込むことによって、このようなスキームが可能となるのです。
具体的にはAB間の売買契約書の中に「Bは所有権の移転先を指定することができる」といった特約や、「Bが書面でB自身を所有権の移転先として指定しないかぎり、Bに所有権は移転しない」といった特約を盛り込むことになります。
6.中間省略登記のメリット
メリットは言わずもがな、Bの税金をかからないようにできる点です。例えば、上記のケースでは、本来であれば登録免許税と不動産取得税がBに課税されることになりますが、このスキームを使用することによって、Bは所有権を一度も取得することなく、Cに物件を売却することになりますので、どちらの税金もかからないようにできるのです。不動産会社の人は、登録免許税と不動産取得税で高額な税金を払わなければならないとうことはよく知っていますので、購入してすぐ売却するような場合に、このスキームが使われます。もちろん、不動産会社でなくても中間省略登記を使用することはできますが、上記のように契約書の特約に必要事項を盛り込む必要がありますので、中間省略登記を検討する場合は、担当の不動産仲介業者や、司法書士に相談したほうがいいでしょう。
7.中間省略登記のデメリット
デメリットとしては融資が受けづらくなる点が挙げられます。現在、多くの金融機関は中間省略登記を用いた取引に消極的になっていますので、自身がBの立場で不動産を売却しようとした場合、Cは融資を受けずに購入できる人でないと、なかなか難しいかもしれません。
また、中間省略スキームの性質上、CからB、BからAに売買代金が支払われて初めてAからCに所有権が移るように契約上取り決められていることが多いかと思いますので、通常の取引より資金移動が複雑になることをCが警戒することも考えられますので、ある程度、信頼関係がある人との取引でないと話がまとまらない可能性も高いです。
8.まとめ
以上のように、不動産を取得する際には少なくない金額の税金を支払う必要があります。中間省略登記が使えるケースであればいいですが、実際の取引ケースでは、中間省略登記が使用できることはかなり稀かと思います。不動産の贈与を受ける際や、購入する際には、上記のような税金がかかることをしっかり頭にいれて、資金計画を立てることをお勧めいたします。