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不動産所有権の放棄はできる?


所有権放棄のニーズ


 不動産所有権の放棄と聞いて、不動産の所有権をあえて放棄したい人なんているの?と思われたかもしれません。私を含め、特に東京都や都市圏在住の方は不動産を取得する事自体が大変で、せっかく手に入れた権利を放棄するなんてと思われるかもしれません。しかし、国土交通省の平成29年度「土地問題に関する国民の意識調査」では、「所有している土地が不要になった場合に、土地の所有権の放棄を認めてもよいと考えますか。」という問いに対して、76.6%もの人が「認めても良い」と回答しています。また、同じく国土交通省の「利用されていない土地に関するWEBアンケート」では「所有に負担を感じる空き地の所有権を手放したいか」という問いに対して、25.4%の人が「売れる見込みはないが、手放せるものなら手放したい」と回答しています。
 所有している土地の立地等に依存するものと思われますが、所有している不動産を手放したい(所有権を放棄したい)というニーズは一定程度あるようです。不動産を相続したが、立地等で売却が容易ではなく、不動産の維持管理や固定資産税等の負担のみが大きいような場合に放棄したいというニーズが発生するのかもしれません。

所有権は放棄できるのか?


 それでは、不動産の所有権を放棄した場合、どのような扱いになるのでしょうか?
共有者が持分を放棄した場合に関しては、民法第255条に規定されています。
“(持分の放棄及び共有者の死亡)
第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。”
また、所有者のいない不動産に関しては、民法第239条第2項に規定されています。
“(無主物の帰属)
第239条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。”
 所有者のない不動産に関しては、国庫すなわち国が所有権を取得することになっています。ただし、ここで規定されているのは「所有者のない不動産」の取り扱いであり、「所有者が所有権を放棄した不動産」=「所有者がいなくなった不動産」になるというものではありません。
 そこで不動産の所有者が自由に所有権を放棄できるのか?という疑問が生じます。
 ご存知の通り、不動産には固定資産税が発生し、国の財源の一つとなっています。また所有者がいることで、不動産の維持、管理等の負担を国が負わずにいられるという側面もあります。所有者が自己の都合で自由に所有権を放棄できるとすると国としては固定資産税という財源を失い、加えて不動産の維持管理という負担を負う事にもなります。その点を考慮すると自由に所有権を放棄できるという可能性は低そうです。
 では実際のところどうなのか?
 まずは所有権の放棄を認めている法律があるのかですが、明確な法律はありません。また裁判所が示した法律的判断である判例に関しても現状では適切なものがありません。法律を研究している学者の方がとなえる学説においても放棄は認められるという説や必要なルールが定められていないことから現状では認められないという見解もあり、所有権放棄の可否は不確定な状態ですが、単純に放棄するということは認められていないというのが現状になります。

今後の動き


 上記の通り、現時点では不動産の所有権放棄は認められていないのが現状ですが、高齢化社会を迎えて今後増加していく相続による不動産の管理不全という状況を防止するために新しい制度の検討が始まっています。具体的には法務省法制審議会の「民法・不動産登記法部会」で検討が進められており、2019年末に「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」が出されています。
 その中では「土地所有権の放棄を認める制度の創設」という項目があり、「土地の所有者(自然人に限る。)は,法律で定めるところによりその所有権を放棄し,土地を所有者のないものとすることができるとする規律を設けることについて,引き続き検討する。」とされています。
 現時点ではどのような制度になるのか、また制度が創設された場合に登記をどのように行うのかは不明な状況です。ですが、近くない将来に創設される可能性がある制度であり、創設に伴って不動産登記に関する法令も改正されて新たな手続きが定められる事が予想されます。弊社もそういった新しい動きに対応し、お客様のニーズに沿った適切なご提案が出来るように努力する所存です。不動産登記に限らず、法律に関してお悩みの点がございましたらお気軽に弊社までご連絡いただけますと幸いです。

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