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全員相続放棄したらどうなる?相続財産管理人の申立て手続きを解説


被相続人が「多額の借金を残していた」、「資産価値が乏しく管理が大変な不動産しか所有していなかった」といったケースでは、関係者全員が相続放棄を選択することも少なくありません。
そういった場合には、被相続人の債権者などの利害関係人は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行い、相続財産管理人に遺産の清算手続きなどを進めてもらうことができます。
本記事では、相続財産管理人の概要について、わかりやすく解説していきます。

1.相続財産管理人とは

1-1.相続財産管理人とは

亡くなった方に財産があっても、相続人がいない場合や相続人が不明な場合には、その財産は、「相続財産法人」という法人になります。
法人とは、法律によって特別に権利や義務が与えられる自然人以外の存在のことをいいます。
つまり、亡くなった方の財産を引き継ぐ方がいないときには、法律上は相続財産を法人として扱うことで、財産の清算などを可能にしています。
相続財産管理人とは、この相続財産法人について、具体的に借金の返済や遺贈の履行などの相続財産の清算手続きを進めていく人のことをいいます。

1-2.相続財産管理人はどのように選ばれる?

相続財産管理人は、相続財産の受遺者や債権者などの利害関係人や検察官が家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の審理を経て選任されます。
相続財産管理人になるためには、特別な資格などは求められていません。
そのため、弁護士や司法書士などの専門職でない方も、相続財産管理人になることができます。
もっとも最近では、被相続人との関係や利害関係などを考慮した上で、家庭裁判所があらかじめ選定した候補者の中から、相続財産管理人を選任する傾向が広まっています。

2.相続財産管理人の選任が必要になるケース

相続人がいない場合や不明な場合に、相続財産の管理や清算などの必要が生じれば、相続財産管理人の選任の必要性が生じます。
主なケースとしては、次のようなものが挙げられます。

2-1.全員が相続放棄したケース

被相続人に法定相続人がいたとしても、負の遺産の方が多ければ、全員が相続放棄することも考えられます。
全員が相続放棄した場合には、相続放棄者であっても、遺産の管理義務を負うことがあるので注意が必要になります。
遺産の管理義務を負う場合には、たとえば被相続人の不動産を荒れ果てたまま放置し、近隣に損害を与えるようなことがあれば、被害者から損害賠償請求されるリスクもあります。
遺産の管理義務は、適切に財産管理をする者に引き継ぐまで負うものなので、このような場合には、早急に相続財産管理人を選任する必要があるといえるでしょう。

2-2.利害関係人がいるケース

相続人のいない被相続人が借金の完済前に亡くなったようなケースでは、債権者によって相続財産管理人の選任申し立てがなされることになるでしょう。
債権者は、被相続人に相続人がいれば、通常は相続人から返済を受けられます。
しかし、相続人がいない場合には、債権者は、誰に請求すればよいかも分からず、だからといって勝手に回収するわけにもいきません。
そのため、相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい、債権回収を行う必要があります。

2-3.事実婚など特別な関係者がいるケース

日本では、法律上の婚姻関係にない場合には、法律婚と同様の実態があったとしても相続権は生じません。
そのため、被相続人に相続人がいない場合でも、事実婚の配偶者は、被相続人の財産を自動的に取得することはできません。
しかし、被相続人の「特別縁故者」として、相続財産の全部又は一部を取得できる可能性はあります。
もっとも、特別縁故者として相続財産を取得するためには、相続財産管理人による一定の手続きを経なければなりません。
そのため、特別縁故者として財産分与を受ける方がいる場合には、相続財産管理人の選任申し立ての必要性が生じます。

3.相続財産管理人選任の申し立て手続き

では、相続財産管理人の選任申し立ての手続きをみていきましょう。

3-1.申立先

相続財産管理人の選任申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所がどこになるのかは、次のページなどで調べることができます。
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html

3-2.申し立てに必要な書類

相続財産管理人の選任申し立ての際には、一般的には、以下のような書類の提出が必要になります。
そのほかにも、ケースに応じて追加書類の提出を求められることもあるので、管轄の家庭裁判所に確認しながら準備をすすめるとよいでしょう。
・申立書
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
・被相続人に相続人がいないことを証明するための戸籍謄本等
(既に亡くなっている被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等、既に亡くなっている被相続人の子どもやその代襲者、既に亡くなっている被相続人の兄弟姉妹の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等など)
・被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
・被相続人の財産を証明する資料(不動産であれば登記事項証明書等、預貯金や有価証券であれば通帳の写しや残高証明書等)
・利害関係人が申立人であるときには、利害関係を証明する資料(戸籍謄本や金銭消費貸借契約書等)
・相続財産管理人の候補者がいる場合には、候補者の住民票(または戸籍の附票)

3-3.申し立て費用

相続財産管理人の申し立ての際には、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代が必要になります。また、家庭裁判所の指示を受けて、官報公告料として4,230円を納める必要があります。
なお、相続財産の管理にあたって必要になる費用が不足する可能性がある場合には、申立人に予納金の納付が求められることもあります。

4.相続財産管理人の選任後の流れ

相続財産管理人の選任後は、主に次のような手続きが進められます。
(なお、令和5年4月に、相続財産の清算手続きに関する改正法が施行されるため、改正後の手続きについて記載します。)

4-1.相続財産の清算人の選任・相続人捜索の公告

家庭裁判所の審判によって相続財産の清算人が選任されたときには、家庭裁判所によって選任を周知させるための公告を行うとともに、これと並行して、相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告が行われます。この公告は、6か月をくだることができません。

4-2.請求申出の公告

相続財産の清算人は、選任・相続人捜索の公告の期間内に満了するように、債権者や受遺者に対し、申し出るよう公告します。

4-3.特別縁故者に対する財産分与の申し立て

被相続人と事実婚の関係にあったり、被相続人の療養看護に努めていたりといった事情がある方がいれば、特別縁故者として財産分与をすることがあります。
特別縁故者に対する相続財産分与の申立ては、相続人捜索の公告の期間満了後3か月以内に行わなければなりません。

4-4.相続財産管理人による相続財産の分配

相続財産管理人は、債権者や受遺者、特別縁故者に対して相続財産を分配します。
なお、相続財産管理人は、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て、被相続人の不動産や株を売却して換価することができます。

4-5.残余財産の国庫への引継ぎ

被相続人の相続財産を分配しても、財産が残ることもあります。
このような残余財産は、法律上国のものになることと定められています。
そのため、国庫に引き継ぐ手続きがなされることもあります。

5.まとめ

本記事では、相続財産管理人の選任手続きについて解説していきました。
近年の少子化や未婚者数の増加によって、身近で相続人のいない相続に遭遇する可能性も高くなることでしょう。
そういった相続においては、相続財産管理人の選任によって問題を解決できる可能性があることを知っておくことは大切です。
相続においては、様々な専門的な知識が必要になることも少なくありません。
相続でお悩みの際には、ぜひ一度お気軽に当事務所にご相談ください。