現在、所有者不明土地が大きな社会問題となっており、相続登記を義務化する法改正も目前であることは、弊社のこれまでのブロブにおいても何度かご紹介してきましたが、今回は、不動産の所有者の相続人がいない場合の登記についてお話したいと思います。
目次
1.相続人不存在とは
不動産の登記名義人の相続人がいないという事態は、次の2つの場合に起こり得ます。
① 登記名義人の死亡後、出生から死亡に至るまでの戸籍謄本等一式を調べてみたが、相続人が存在しないことが判明した場合
・・・この場合は、昨今の未婚者や子供のいない夫婦の増加に伴い、今後増えていくことが考えられますね。
② 戸籍上登記名義人の相続人がいることが判明したが、相続人の全員が相続放棄をした場合や、相続人の欠格事由(民法891条)に該当、または推定相続人の排除(民法892条)があった場合
・・・これらのうち、相続放棄が最も一般的かと思いますので、相続放棄について民法の規定をみてみます。
民法939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 相続放棄をすると、「初めから相続人とならなかったものとみなされて」しまうのです。例えば、登記名義人が多額の借金を遺して亡くなってしまった等の場合には、相続人の全員が相続放棄をするということも起こり得るでしょう。ちなみに、相続放棄をするには、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません(民法915条・938条)ので注意が必要です。
2.相続財産法人とは
上記の①か②のいずれかに該当し、登記名義人が遺言等も遺さずに亡くなった場合、その不動産の名義はどうなるのでしょうか。民法に次の規定があります。
民法951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
「法人」???
相続財産が誰のものでもなくなってしまったわけですから、例えば、前述のように被相続人(亡くなった人)が多額の借金を遺してしまった場合には、債権者は、被相続人の相続財産に対して、債権回収ができないという事態になってしまいます。そこで、民法は、相続財産について、相続人が不存在の場合には、法人を成立させることとしたのです。
法人とは、最も身近なものでいうと「会社」がその一つに挙げられます。例えば、会社名義で不動産を売買するという行為は、実際には、代表取締役等の代表者が会社を代理してその行為を行うことにより可能となるのです。同様に、前述の民法951条により相続財産について成立した法人においては、家庭裁判所で選任される「相続財産管理人」が、法人を代理してその相続財産について様々な管理行為を行うことができる、というようにしたわけです(民法952条・953条)。
3.相続人がいない不動産の名義人
では、相続人が不存在となり、民法951条により法人が成立した場合、相続財産である不動産はどのような登記をするのでしょか?
まず、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において相続財産管理人が選任されます。この相続財産管理人が登記の申請人となり、名義変更の登記を申請します。
不動産の現在の名義人をAさんとして、Aが亡くなり、その相続人がいなかったとすると、登記手続上この名義変更の登記は、Aから法人への所有権移転登記ではなく、氏名変更登記をすることになり、次のように登記されます。
原因 〇年〇月〇日相続人不存在
登記名義人 亡A相続財産
原因の〇年〇月〇日は、Aが死亡した日が登記されます。これでこの不動産は、「亡A相続財産」という法人名義の不動産となるわけです。なんだか不思議な登記ですね。
不動産の名義人の相続人がいない場合には、まず、必ずこの登記からスタートすることになります。このあとこの不動産は、どのような運命を辿っていくのでしょか?
つづきは、また次回お話したいと思いますので、ご興味を持たれた方は、次回Part2もお読み頂ければと思います。